名松線、紀勢本線(松阪~亀山)
2日目(5月26日)は、松阪駅からスタート。
手持ちのきっぷには、名松線のルートは含まれていませんので、伊勢奥津までのきっぷを買います。
往復分が欲しかったのですが、自動券売機には表示されていませんでしたので、帰りは列車内での清算ということになりそうです。
7時32分発、家城行きは、2両編成です。
車内にはすでに野球のユニフォームを着た高校生でいっぱいでした。
三重県に稲作のイメージがあまりなかったから、ちょっと意外な光景でした。
進行方向右手の遠くから、近鉄大阪線の高い支柱が見え、だんだん近づいてきますが、完全に接することはありません。
やや住宅の多い一志駅で、さらに野球部の高校生たちが乗ってきて、車内は賑やかになります。
8時11分、家城駅に到着。
野球部の高校生たちは皆、降りていきました。
ここで、8時25分発の伊勢奥津行き(右側)に乗り継ぎます。
車両は今乗ってきたのとまったく同じですが、今度は1両です。
なお、名松線に使われる車両は、全部で3編成ですので、ここで全て揃ったことになります。
私が乗った列車は、折り返し8時19分発、松阪行きに変わり、時間になると颯爽と出発してしまいました。
一方、これから乗る列車で、運転士が駅員に輪っかのような物を渡されました。
所謂、通行票というもので、これを持っている列車だけが運行できるというシステムです。
スピードも先ほどとは段違いに慎重に走っていきます。
川沿いの狭い土地に茶畑が見られるのも、名松線の見所の1つですね。
「伊勢茶」というブランド名が付いています。
建物からして、はじめは学校かと思いましたが、学校にはウォータースライダーは設置されてないはず。
見るからに高度経済成長期やバブル期の遺産のようにも思えるのですが、実はこの後、伊勢奥津駅の観光交流施設の方に話を聞くと、火の谷温泉「ホテルアネックス」が運営する施設で、このウォーターパークは夏場のみ開放されるそうです。
結構、利用されているのだとか。
伊勢八知駅から先はさらに幽邃(ゆうすい)な所を走り、道路も幅が狭くなります。
靄がかかったあたりは、まるで水墨画のようで幻想的な雰囲気を漂わせています。
さすがに10年前のままとは思われませんが、それでも度々襲ってくる台風の被害を生々しく見せてくれます。
伊勢奥津駅に近づくと、線路の終端部で写真をパシャパシャ撮る外国人たちがいました。
8時59分、終点の伊勢奥津駅着。
ホームに降り立つと、森林特有の薫りがふわっと入ってきました。
昔、私が小学生の頃に、母方の実家が熊本の山奥にあり、夏休みに遊びに行ったりしましたが、その時によく似た雰囲気で、どこか懐かしさを覚えました。
無人駅ですが、駅舎は最近建てたと思われるログハウス風で、観光交流施設「ひだまり」が併設されています。
そのため、尻切れトンボのような路線になってしまいました。
蒸気機関車時代に使われた給水塔も、今では植物に覆われて徐々に自然との同化が進んでいるように思います。
なお、名張駅へは現在、バスが運行されていますが、途中の飯垣内(はがいと)で乗り継ぐ必要があり、しかも本数が1日1本(平日のみ)と、絶望的に少ないです。
折り返し列車が9時35分と、30分以上時間があるため、観光交流施設「ひだまり」に入り、店内を見て回る。
すると、地元のボランティアガイドの方がこちらへ来て、「この地域の観光プログラムに参加される方ですか?」と尋ねてきました。
もちろん私はすぐに戻ってしまうので、「いいえ、違います」と答えましたが、この奥津地域に観光プログラムが用意されているのは初耳でした。
しかも、どこからか「今日、取材入っているよねー」という声がして、「うん、NHKさんが」とか「もうそろそろ来るんじゃない?」とかで、意外と人気のあるスポットなのかなと思いました。
私が店内でウロウロしていると、お店の人が、「よかったら、お茶でもどうです?」と声をかけてくれたので、お言葉に甘えてお茶を頂くことにしました。
木のテーブル席に着くと、なにやら変わったアイスが並んでいる。。。
買ってしまいました、塩バジルクルミ入り。
メーカーがどこなのか忘れましたが、三重県内で製造されていることは確かです。
ふたを開けると、バジルの香りが入ってきます。
ジェラートのアイスに緑色の点々が混ざり、いかにもバジルですよ~と主張してきます。
その強い主張に少し引きながらも、一口食べると、これが意外にミルクアイスと合う。
中に埋まってるクルミが食感にアクセントを与えて、なかなかおもしろいです。
考えてみれば、チーズにバジルが合うのは常識ですから、同じ乳製品であるミルクアイスにバジルは合わないはずがありません。
お茶は薫り高く、たぶんこの地域で取れた「伊勢茶」でしょう。
2日目の旅はまだ始まったばかりなのに、ほっと一息をついた私に、お店の人が「今日はどちらから?」
「富山からです。」
「あれ~、わざわざ。名松線で?バスで?」
「名松線です。」
「じゃあ、ゆっくり観光していってください。」
「はは、残念ながら、次の9時35分の列車で戻るんです。」
「鉄道マニアの方で?」
「まあ・・・、そうですかね・・・。マニア程知識があるかは怪しいですが・・・」
「ここ、なんにもない所でしょう。」
返す言葉に少し窮しつつ、「ホームに降りたら森林の独特の薫りがしました。空気がきれいな所ですね。」
「ありがとうございます。そう言ってくれると、嬉しいですね。」
「そうらしいねぇ。地元の人もものすごく頑張ったらしいからね。特にお年寄りなんか車の運転できないでしょ。やっぱり鉄道がないと。一志のショッピングセンターまでならコミュニティバスがあるんだけどね。」
働きかけで何か事情を知っているようでしたが、深く立ち入らず、ふと目に入った猪肉や鹿肉へと話題を変える。
「この辺りは、ジビエも盛んなんですか?」
「ええ。ここからもうちょっと行った所に、ジビエ料理を出してくれるお店もあるんですけど。ここにも猪肉のしぐれ煮がありますよ。よかったら見ていって。」
「ありがとうございます。」
入り口付近に猪肉のしぐれ煮が置いてありましたが、冷凍パック。。。
さすがに2日間、冷凍物を持っていくわけにはいきませんので、諦めて「それじゃあ、列車に戻ります。お茶、どうもありがとうございました!」
「いえいえ、こちらこそ。お気をつけて。」
・・・何もないとはいうものの、きれいな空気と水、山と豊かな森があり、猪や鹿がいる。
虫や鳥の鳴き声が聞こえ、他に余計な雑音が混じらない静寂さ。
これだけでも都会にはない価値が、ここにはあるんだなと、帰りの列車内で反芻しました。
駅で帰りの運賃を清算しないまま、やむを得ず亀山行きの列車に乗ることに。
亀山駅が有人駅なので、そこで払うことにしました。
車内はやはり高校生が多く、賑やか。
何度も利用している伊勢鉄道が進行方向左へと分かれ、平坦な所を快走していく。
一身田駅で高校生たちは降りていき、乗車率は30%ぐらい。
やがて、丘陵地帯を走行し、紀勢本線最後のトンネルを抜けます。