函館本線(砂原支線)
7両編成で、私が乗車した先頭の指定席車は満席でした。
たぶん他の車両も満席か、それに近かったでしょう。
列車は海沿いでも山中でもお構いなしに、振り子制御を発揮してぐんぐんスピードを増していきます。
先ほど滞在した小幌駅には、ほんの一瞬で通過し、やはり知らないと駅の存在に気が付きません。
長万部駅、17時1分着。
左窓をのぞくと、内浦湾の向こうに、うっすらと駒ケ岳が見えてきます。
函館本線は森駅まで内浦湾の縁をなぞるように、ぐるりと弧を描きます。
この辺りも古い木造家屋が多く、漁村らしい鄙びた雰囲気が出ています。
森駅に近づくと、海の向こう側に半島のような形が見えてきます。
室蘭市の絵鞆半島(えともはんとう)です。
のりばが隣とはいえ、1両の普通列車は後方にあり、先頭車から移るのにちょっと時間がかかりました。
おや?
調べてみると、つい1週間前の6月18日に運用され始めたばかりの「道南 海の恵み」という車両で、水色を内浦湾に見立て、様々な魚たちのイラストが施されています。
車内は、木材のフローリングで落ち着いた雰囲気を演出しています。
座席の背もたれにも木材が使われ、シートは青とオレンジと、新しいものに交換されています。
簡易改造した車両で、まあこの程度で飛びつくのは、モノ好きな鉄道マニアぐらいだろうと思っていたら、車内に入ってきた女子高生たちが私の対面のロングシートに座るなり、
「え、なにこの電車?」
「ちょっと(良い意味で)ヤバいんだけど~。初めて乗った~。」
と、テンション上げ上げのようでした。
名物の駅弁「いかめし」を買いたかったのですが、6分で跨線橋を渡り、改札口を出て買えるかどうか心許なかったので、やめました。
もっとも、「いかめし」は函館駅にも売っているのですが。
たくさんの高校生たちを乗せ、17時49分に森駅を出発した列車は、市街地をゆっくり走ります。
右側に駒ケ岳がそびえ、だんだんと近づいてきます。
はじめは地平で海が少し見える程度でしたが、だんだんと高度を上げていき、次第に林の中へと分け入ります。
男子高校生が「あっつ!」と言って、窓を開けました。
列車はずいぶん森の中を走るようになり、これでは虫が入ってくるではないかと思いましたが、かといって、わざわざ男子高校生に「虫が入ってくるから、窓を閉めてください。」なんて言うこともできません。
日が山かげに隠れ、暗くなり始めたから、虫が明かりのあるこの車両に寄ってこないか心配でしたが、渡島砂原駅で大半の高校生たちが降りて行き、いなくなったのを見計らって、窓を閉めました。
民家は駅前に点在するぐらいで、列車は鬱蒼(うっそう)と生える木々を縫いながら、さらに上っていきます。
灰色のくもり雲の下に入りました。
こんなに森ばかり見せられると、なんだか森の中を彷徨っている気分になります。
しかも、貨物列車も走るはずの重要幹線なのに、線路の状態が悪いのか、やたらトロトロ進むものですから、なおさらその気持ちを増幅させます。
流山温泉から右手に大沼がありますが、ちょっと暗いし、木々が柵になって、視界を遮ります。
そのうち先ほど森駅で分かれた本線と合流し、18時40分、大沼駅着。
列車は下りの勾配にかかり、七飯駅でようやく町らしくなり、それに伴って乗客も増えてきました。
19時17分、函館駅に到着。
列車から降りると、1人の女子高生がこの車両にカメラを向けて、熱心に写真を撮っていました。
将来、有望な鉄道ファンになりそうですね。
撮り終わると、この車両を運転していた運転士と親しげに話し、改札口を出ていきました。
これで6日目の旅程は全て消化できました。
同時に、北海道を発ち、青函トンネルを抜けて東北へと足を踏み入れます。(続く)