室蘭本線5(小幌駅)
13時8分に東室蘭駅に帰ってきた私は、駅前のラーメン店で昼食をとります。
駅弁「母恋めし」を買っておきながら、ラーメンにも手を出すなどけしからぬことかもしれませんが、塩ラーメン1杯だけなら、私の胃袋も許してくれるでしょう。
乗車人数は20名程度で、うち半数が高校生でした。
車内には、やはり私と同目的をもつと思しき人が何名か見受けられました。
先ほどの支線区間よりも近く、はっきりと見えますね。
その工場地帯が終わると、天然の良港、室蘭港です。
工場の目の前にあって海運輸送は有利ですね。
列車はこの先、内浦湾(噴火湾)に沿ってぐるりと進んでいきます。
北舟岡駅は、目の前が海という珍しい駅です。
茶色く濁った海が白波を立ててホーム下へと押し寄せてきます。
これだけ近いと、ホームから釣りができそうですね。
さて、ここで待ちに待った「母恋めし」を開きます。
この駅弁は、室蘭郷土料理コンクール最優秀賞受賞「母恋めし」をもとに、お母さんの味を大切にしてつくられました。
桜色の風呂敷をほどくと・・・
このような紙の包みが現れます。
紙の包みを解き、さらに容器のふたを開けると、中身が現れます。
ホッキ貝を使ったおにぎり2つに、燻製たまご、スモークチーズ、漬物とハッカ飴が入っており、酒のつまみにピッタリだなという印象でした。
ホッキ貝のコリコリとした歯ごたえのある食感が、味付けご飯とマッチしています。
燻製たまごは、ほろ苦くも深みのある味が広がりました。
豊浦駅で地元客は降りていき、残った人たちは私を含めて、どう見ても小幌駅を目指しているように思われました。
内浦湾と分かれて礼文駅から山の中へと入っていきます。
私を入れて8名が下車しました。
ホームは仮乗降場のような簡素なつくりで、有効長がおそらく1両分しかない短さです。
ホーム下には幅の狭い川が勢いよく流れていて、常にザアーーっと音を立てています。
その先に内浦湾があり、そこへ一気に注ぐのでしょう。
どうも内浦湾の方へは山道があるようで、冒険心をくすぐらせますが、万が一、ヒグマにでも出くわして襲われたらたまったものじゃないので、周辺探索はやめました。
反対側は山で道らしき道は見当たりません。
もちろん、人家もありません。
三方が険しい山に囲まれ、かつ残りの一方も海ですから、さながら天然の要塞という印象が強いですね。
これじゃあ、鉄道でしか交通手段はないのも納得できます。
小幌駅は、もともと列車交換のための信号場として開設されました。
当時、単線だった室蘭本線に途中どこで交換するかを検討した結果、勾配の緩いこの地を選んだそうです。
信号場の時から旅客扱いはしていたそうですが、1987年、国鉄分割民営化と同時に、駅に昇格し、正式に旅客営業するようになりました。
たぶん駅に昇格した当時はまだ利用客もいたのでしょうけど、現在ではご覧の通り、住人はおらず、旅客営業していったい何のメリットがあるのだろうと思われます。
やがて、新辺加牛トンネルからポーッ、ポーッという音が聞こえ、次に「列車が来ます。危険ですから、離れてください。」という警告アナウンスが流れ、構内踏切の遮断機が下りました。
すると、周囲を見学していた人たちは、来たる列車を写真に収めようと一斉にスタンバイしました。
さらに反対方向からも、函館方面へ向かう特急列車が来て、やはり大きな警笛音を鳴らし、「ブルルンッ!」とエンジン音をうならせながら、もの凄い速さで通過し、またトンネルへと入っていきました。
あまりにも速いから、特急列車の乗客は、まさかこんな所に駅があるなんて分からないでしょう。
ホームには陽が強く差し込むほどまぶしく、これだけでは初夏のようでしたが、澄み切った青空に白い雲が悠々と流れ、川のせせらぎ、カッコウやウグイスの鳴き声、時折そよ風による木や葉の揺れが、春を思わせ、6月下旬なのに春と夏が入り混じっているような陽気でした。
利用客は駅周辺の写真を撮ったり、情報交換をしたりして過ごしていました。
中にはアジア系の外国人夫婦もいて、こんな秘境駅をいったいどうやって知ったのか不思議でしたが、とにかく日本は隅々まで国際化したんだなと思いました。