ゆき丸の鉄道日記

鉄道旅行や雑記を綴ります。

由利高原鉄道1(まごころ列車)

6月28日(木)。

9日間にもおよぶ北海道・東北鉄道旅行もいよいよ最終日を迎えました。

この日は、秋田を出発し、羽後本荘由利高原鉄道に乗って折り返し、あとは羽越本線信越本線えちごトキめき鉄道日本海ひすいライン、あいの風とやま鉄道で家に帰る予定です。

未乗線は由利高原鉄道だけですが、私の住む富山からだとなかなか乗りにくい線なので、この機会にぜひ乗っておこうと思っていました。

ところが、昨夜、大雨の中ホテルに着いて、風呂に入った後、テレビをつけて天気予報を見たら、大雨警報が出され、沿線の子吉川が氾濫危険水位まで迫っているなんて言うものですから、最後の最後まで気が気でなかったです。

幸い、今朝になって雨は落ち着き、列車運行状況を確認したら、通常運転されているみたいですから、ひと安心しましたが、なるべくまた大雨が降らないうちに済ませたいものです。





ホテルを8時40分と例によって遅く発ちます。

当ブログで何回か書いていますが、私は早起きが非常に苦手で、のんびり出発する傾向にあります。

5時とか6時とかの早朝から始め、しかも終わりが夜9時とか10時までスケジュールをぎっしり詰め込んで旅行するなど、日帰りでない限り、体力的に無理なのです。

さすがに内田百閒氏のようにお昼から始めるとまではいきませんが、だいたい午前のうち3分の2、または4分の3は回っていますね。

午前中のほとんどをつぶして、損しているかもしれませんが、ま、私としては万全の状態で楽しみたいわけですから、これでいいのです。

それにしても、最近は女性でも早朝に出発して、夜遅くまで旅行し、それで3時間とか4時間とかしか睡眠をとらず、また夜明けとともに発つ・・・、という人が出てきて、ただただすごいな~と感心するばかりです。

あれこそ男性的・肉食系旅行のように思われます。

それに比べれば、私なんてのんべんだらりとしているものですから、なんて女々しく草食系なんだろうと、男ながら苦笑してしまいます。

それもこれも、体力とやる気がないからなのですが。。。





小雨が降る中、歩くこと20分、秋田駅に入ります。

昨晩、雨が降っただけで、タクシー代910円も取られたのは癪に障りますが、その代わり疲れて食欲が湧かず、今旅行2度目の晩御飯抜きとしました。

もちろん、朝ご飯はしっかりとりましたが。



イメージ 1

羽越本線の9時13分発、酒田行き普通列車に乗ります。

この列車にしたのは、上記のゆっくり発ちたいという欲求だけでなく、羽後本荘で接続する由利高原鉄道の列車が、「まごころ列車」という観光列車だからで、私にとっては二重に都合のいい列車なのです。



イメージ 2

その普通列車は2両編成で、地方路線としては旅情台無しのロングシート車で行きます。

ラッシュ時間は終わっていますから、車内はガラガラ同然でした。




右端から左端までいっぱい水が張っていて、下を見ると、線路まで水が迫っているような勢いでした。



イメージ 4

すっかり乳白色の靄(もや)に包まれ、日本海は地平線まで見ることができません。

もっとも、これが本来の梅雨らしい景色だと思われますが。




9時55分、羽後本荘駅に着きます。


イメージ 5

イメージ 6

次の由利高原鉄道、矢島行きは10時43分で、48分待ちです。

いったん改札口を出ます。



イメージ 7

駅前は閑散としていて、すぐ行ける観光地もとくにありません。

中へ戻って、由利高原鉄道のきっぷを買います。

1日フリー券が土日祝日しか使えないため、矢島までの往復券を購入。


イメージ 8

1枚の硬券にまとめられているんですね。

10時20分前に改札が始まり、きっぷにはさみをパチンと入れてもらいます。

JRと共用の跨線橋を渡り、先ほど降りた3番線の向かい側、4番線に1両のディーゼル車が停まっていました。



イメージ 9

車両前面の中央部に「たなばた列車」のヘッドマークが付いています。



イメージ 10

イメージ 11

イメージ 12

車内は、短冊、笹、子どものクリップアートなどが飾られ、ロングシートの前に木製の長机がずらりと並んでいます。

たぶん貸切列車としても使用するのでしょう。

保育園児が書いた短冊を見ると、「ひらがながかけるようになりたい」とか、「ぷろやきゅうせんしゅになりたい」といったものから、「HUGっと!プリキュアキュアエールになりたい」と非現実的なもので、色とりどりでした。

さすがにキュアエールにはなれませんが、可愛らしさとカッコよさに憧れる気持ちは分かります。




由利高原鉄道鳥海山ろく線は、羽後本荘駅矢島駅を結ぶ全長23.0kmの第三セクター路線で、1985年10月に旧国鉄矢島線を引き継ぎました。

やはり赤字路線ですが、この「まごごろ列車」や七夕車両など、観光客の取り込みに力を入れています。




乗客数は私と老年紳士1人、熟年夫婦、さらに3人組のおばちゃん観光客の7人でした。

そこへ赤と白の頭巾に、藍色の着物を着た「おばこ」姿のアテンダントさんが乗り合わせました。

「おばこ」とは、秋田で二十歳前の未婚女性という意味ですが、どう見ても四十過ぎた既婚女性のように思われました。

その点は心得ているらしく、おばこの説明中に「おばことは秋田で二十歳前で嫁入り前の娘のことですが、まあ、ご覧の通り、もう過ぎてしまっています。でも心はおばこです!まだまだ若いですよ~」と冗談も含めて言うので、3人組のおばちゃんたちは「アハハハハハ」と笑い声をあげていました。

たしかにおばさんには違いないのですが、津軽鉄道と同じ細身で色白、しかも着物を着ているためか、どこか艶めかしさがありました。




イメージ 13

アテンダントさんから、沿線観光のパンフレットと、折り紙で作った手製の織姫・彦星、本のしおり、さらに本来は子どもしかもらえない金平糖もいただきました。

観光列車の特別料金はとくに払っていないにもかかわらず、これだけでもサービス満載ですね。




アテンダントさんからこの車両についての説明がありましたが、やはり貸切宴会にも使われるとのことで、1人4000円弱だそうです。

片道600円、往復1200円ですから、それだけで3分の1弱になります。

これにビール飲み放題と料理も出されますから、それはそれはもう元も子もありません、赤字経営なのに、とアテンダントさんは苦笑していました。




10時43分に出発した列車は、しばらく羽越本線と並走した後、左へと曲がり、薬師堂駅に停車。

ここで熟年夫婦はもう降りて行き、代わりに野暮ったい格好をした中年男性が自転車を持って上がり、前方へ自転車を置くなり、後方へと移動して、席の上にごろんと横になりました。

その様子を見た3人組と私は、怪訝な目で見つめましたが、すぐにアテンダントさんが小さな声で、

「この人、地元の人なんです。いつもこうですから、気にしないでください。」

と、フォローしました。




イメージ 14

列車は広い水田地帯を走り、南側に柱がいくつも連なっています。

これは防雪柵で、今は仕切がありませんが、冬場は吹き溜まりが厳しいため、柵を設けるのだそうです。



イメージ 15

子吉から鮎川間には工場が見えます。

何という工場名か忘れましたが、由利本荘市の雇用にお世話になっているとのこと。



イメージ 16

子吉川も茶色く濁っていて、水量が多かったです。

昨晩の大雨で、危うく運休になりかけたそうで、ぎりぎり終電に間に合ったと。




残念ながら、鳥海山は雲に覆われて見ることができませんでした。

今日の天気に期待はできませんが、帰りに見れるかどうか・・・




前郷駅で、通行票の交換が行われます。

タブレット閉塞(へいそく)といって、タブレットという輪っかの通行票を持った列車だけが入線でき、単線での列車衝突防止のためのシステムです。

昔ながらの閉塞方式で、今ではこの由利高原鉄道のほか、4ヵ所しか残っていません。
(ちなみに津軽鉄道で見た通行票の交換は、「スタフ」というものでした。)

そんな貴重な光景をおばちゃんたちは逃すはずがなく、なりふり構わず写真を撮りまくりました。

だいたいおばちゃんというのは、恥じらいがだんだんとなくなっていくような気がします。

列車内ではグループで行動することが多く、周りを気にすることなく、おしゃべりに高じたり、写真を撮ったり、ボリボリつまみを食べたりするなど、ものごとに積極的になることが多いです。

一方、我ら男性陣は孤高の一匹狼のような佇まいで、誰ともつるむことはなく、ある人は景色を眺め、ある人は物思いに耽り、またある人は座席に横になってぐうぐう眠るなど、静的になる傾向にあります。

ずいぶんな偏見であり、もちろんすべてに当てはまるわけではありませんが、しかし、この車内に関して言えば、「動」と「静」の典型的な図がはっきりと見出されました。

反対列車との交換が済むと、この列車は11時4分に出発し、おばちゃんたちは満足した様子で自分の席へと戻りました。



イメージ 17

駅にはあじさいが見事に咲き、手入れが行き届いているように見えます。

アテンダントさん曰く、「これも地元の人が手入れをしている」とのこと。

こういう赤字ローカル線は、地域の人も支えているんですね。



イメージ 18

列車は人家の少ない所を、奥へ奥へと進みます。

11時22分、終点の矢島駅に到着。

眠りの中年男性がむくっと起きて、自転車を列車から降ろし、改札の外へと出ていきました。

続いてほかの乗客も改札を出て、最後に私が降り、前方へ回り込んで列車にカメラを向けようとすると、駅員さんから、

「すみません、すぐに回送しますので、いったん改札口へ出てください。」

と制止されました。

どうせ人も少ないし、写真ぐらいいいじゃないかと思いましたが、安全に気を遣っているんだろうと思い直し、そそくさと改札を出ました。(続く)