ゆき丸の鉄道日記

鉄道旅行や雑記を綴ります。

由利高原鉄道2、矢島駅

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矢島駅には11時22分に着き、折り返しが12時ちょうどと40分近く時間がありました。

外は小雨が降っているようで、荷物を預けて駅周辺を歩き回るか、昼食をどこかでとるかで思案していたところ、地元民のおばちゃんに声をかけられました。

「まあまあ、お茶でも飲んでいってくださいよ。」と言われ、桜茶をいただきました。


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ひと口飲むと、しょっぱさと桜の風味が広がりました。

飲みながら、おばちゃんに「どこから来たの?」とか、「観光で?」とかいろいろ聞かれ、12時ちょうどの列車でまた帰るのですと話したら、おばちゃんは奥の売店で座っていた和服姿のおばあちゃんの所に行って、何かを相談しているようでした。

このおばあちゃんは佐藤まつ子さんと言って、ちょっとした有名人らしく、「まつ子の部屋」という貼り紙がしてありました。

まるで「マツコの部屋」というテレビ番組にそっくりですが、実は本当にあの番組にも出演したことがあるという。

2人が私を呼び、行ってみると、やはりまつ子さんにも「お兄さん、富山から来たの?」とか、「観光なの?」とか次々と質問砲が飛んできました。

「12時ちょうど?じゃあせっかくだから、駅前をぜひ回ってきなさい。」と言って、こちらの同意を得ないまま矢島町の散策マップを取り出しました。

「ここのお宅は町内で一番古い家だから、ぜひ見ておくといいよ」とか、「お酒買うならここだよ」と、ピンクの蛍光ペンで印をつけてもらいました。

世話好きな点は、私の住む富山と同じですね。

「荷物は売店に預けていきなさい。どうせ今日はお客さん少ないから。」と言ってくれたので、お言葉に甘えて、預けてもらうことにしました。






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ゆるやかな坂を上り、川を渡った先に、「斉藤寅次郎生家」がありました。

古い木造家屋で、黒ずんでいる木が年季を感じます。

斉藤寅次郎とは映画監督で、私は観たことがありませんが、喜劇映画を得意としたそうです。

その反対側に、まつ子さんに教えてもらった家がありました。

こちらも古い木造家屋で平屋建てのようでしたが、柵に囲まれていて全貌を見ることができませんでした。

マツの木が立派に立っていて、このあたりの地主さんなのかなと思うほど広いお宅でした。




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坂を少し下って、Y字分岐点に、「天寿酒造」という酒蔵がありました。

お土産に買おうと踏み入れると、入り口に「限定品 鳥海山」という幟(のぼり)が立っていました。

例の「限定品」という言葉に釣られて中へ入り、その生酒を買って駅へと戻りました。




まつ子さんの所へ行き、生酒をお土産に買ったことと、荷物を預けてくれたお礼を述べました。

まだ出発まで10分ほどあったので、まつ子さんといろいろお話をしました。

ふと下を見ると、段ボールで作ったおもちゃが置いてありました。

お孫さんと一緒に作ったそうで、たぶん夏休みの工作かなにかだったのでしょう。

お孫さんにはやりたいことをさせ、応援していることを聞いて感心していたら、その次に娘さんの子育てで失敗したことを明かしてくれました。

お孫さんとは反対に、娘さんにはつい口を出し過ぎてしまい、うまくいかなかったこと。

「もっと娘のやりたいことをさせれば・・・」と繰り返し口にして、後悔を抱いている様子でした。

そんな反省から、お孫さんにはたくさんやりたいことを応援するという方針に転換し、今では一緒に楽しくしているとのこと。

段ボールのおもちゃの隣に、おつまみ用のくるみが置いてあり、まつ子さんはそれを取って、

「これは保育園の子ども達が一生懸命くだいて袋詰めしたんですよ。私も手伝って」と言い、「これぜひ買っていって。保育園の子ども達も喜ぶから」と勧めてきました。

そんな話を聞かされちゃあ、財布のひもは緩くせざるをえず、あえなく陥落。

それでも、嫌みがなに一つ残らないのが不思議で、「みんなでこの鉄道を支えているんだよね」という言葉が答えなのでしょう。




まつ子さんとの話にすっかり夢中になって、出発時刻が迫り、少し慌てていると、

「大丈夫だよ。ここは田舎路線だから、ちょっとぐらい遅れても待っててくれるわよ」と、今旅行3度目のセリフを聞く。

最初に声を変えてくれた地元のおばちゃんにもお礼を言い、列車に乗ると、行きのアテンダントさんとまつ子さんが、私の前に旗を持って見送りに立ちました。

思い出に残そうと、私がカメラを向けると、お二人はイヤな顔ひとつせず、にこりと笑って手を振ってくれました。



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これだけでも嬉しかったのですが、まつ子さんの旗をよく見ると、



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手書きで「富山からありがとう。またネ~」とありました。

おそらく私が駅前を歩いている間に認めた(したためた)のでしょう。

全国いろんな鉄道に乗りまくった私でも、ここまで温かく見送ってくださったのは初めてでした。

目頭が熱くなり、私も手を振りました。

やがて、ピョーーーッと出発の警笛が鳴ると、列車はディーゼルエンジンをふるわせてゆっくりと進み始めました。

私は後ろへ流れていくお二人の姿が消えるまで、ずっと眺めました。

見えなくなると、変哲のない雲と山の景色だけになりました。

雨はもう止んでいるはずなのに、その雲や山がにじんで見えました。(続く)