南阿蘇鉄道高森線1(高森駅)
「今年は紅葉が早いですね」とは、宿の方の言。
外を見ると、楓はすっかり色づき、落葉もたくさんあります。
実は列車から眺めていてもそうで、今年は紅葉する前にすっかり葉が落ちて、枯れ木のような姿をあちこちで見かけます。
こんな哀れな姿になったのも、やはり相次ぐ豪雨や台風のせいかもしれません。
10月31日(火)。
曇りでうすら寒い朝です。
午前8時に朝食。
メニューは、サラダにスクランブルエッグ、ソーセージ、パン、コーヒー、小さなイチゴの入ったヨーグルト、そして栗ご飯をごちそうになりました。
変哲のない内容ですが、庭で育った野菜類や自家製パンを出しているため、やさしい味。
やはり地元に根ざした料理は、身体に良いですね。
朝食をとっていると、近くにいた2人組のマダムたちが私に話しかけてきました。
この方たちは、同窓会で来たついでにここへ立ち寄り、1泊したのだそう。
年に1回利用しており、ほとんど常連さん。
1人は熊本市内在住で、もう1人はなんとフランスのパリから。
でも、身だしなみを見れば、たしかに上品。
「どちらからおいでなすって?」
「富山からです」
「富山から!?どうやってここまで?」
予想通りの反応と質問。
そりゃあ、北陸からわざわざ九州の山里に来たのですから、不便であることは了承済み。
ひとまず、列車の旅をしていることを告げると、
「この方、汽車旅が好きなんですよ」と、女将さん。
田舎で、一定以上の年齢の人は、列車や電車と言わず、「汽車」と言います。
これは、私が富山に来た時もそうで、やはり年配の方から「汽車」という言葉をよく聞きます。
でも、まだこうして往年の言葉が残っていることに、「汽車」の影響力の大きさを知らされます。
「じゃあ、これから南阿蘇鉄道に乗って?」
自分でも口に出すのが恥ずかしくなってきます。
こんな具合ですから、とうてい日本の鉄道全線乗りつぶしなんて、言えるわけがありません。
相手方も、物珍しそうにこちらをうかがっているし、もしここでうっかり口を滑らせたりしたら、それこそ妙な目で見られます。
「いろいろ回って」とぼかしたのも、そういう陳腐な理由からなのですが、相手方ももう興味が薄れたようで、違う話題へと転じていきました。
と、女将さんが渡してくれたのは、お菓子の詰め合わせ。
本当にありがたい。
さらに高森駅までは、宿の方が車で送ってくれました。
駅前に着き、荷物を車から降ろすと、
「この駅舎、好きだったんですよ。古さに味わいがあって。こんど復旧と同時に建て替えちゃうんだって」
と宿の方が寂しそうに駅舎の方を向きました。
地元で生まれ育った人からすれば、思い出が1つ消えることになりますから、そういう気持ちにもなります。
ただ、老朽化が進んで、何かの拍子に駅舎がつぶれてしまっては元も子もありませんから、仕方のない流れなのかなとも思ってしまいます。
宿の方にお礼を言い、駅舎へ入ることにしました。
とはいえ、私にはそれほど古い感じもしない駅舎ですが、中へ入れば、たしかに古さが目立っているのは否めません。
きっぷ売り場や待合室だけでなく、お土産屋も兼業していて、いろんな商品が並んでいました。
今日も「旅名人の九州満喫きっぷ」を存分に使うつもりで、この3回目で最後です。
が、なんだかタダ乗りするかのようで気が引けます。
それで、せめて何かひとつ買って応援しようと、ぐるぐる回った結果、500円のキーホルダーに決めました。
これだけで応援とは申し訳ないのですが、大きな物ではこの先、持っていくのに煩わしくなってしまいます。
お会計をしようと窓口へ行くと、さっきから入り口付近で、職員と思しき方がロボットと話し合っていました。
「今日の天気は?」
「あなたの趣味は?」
など、1人ぶつぶつとロボットに話しかけていて、傍から見れば、いかにも怪しい光景です。
時間がないので、2人?の会話を遮って、お会計をお願いし、用を済ませました。
「これから中松行きの列車に乗ります」
「ああ、そしたら、もうホームに入っていいよ。列車がホームにいるから」
誰もいないホームに入ると、紫色のディーゼル車が1両でちょこんと停まっていました。
九州・沖縄鉄道旅行4日目、最初の乗車です。