与那国島3(バードウォッチャーとの出会い)
東崎灯台から引き返そうとしたところ、行く手に与那国馬たちがいました。
人間様が近づくことを警戒して、こちらに向かって走って来られたら、たまったものじゃありません。
刺激を与えぬよう、細心の注意を払って、そろりそろりと歩く。
無事、抜けたところで、1人のおっさんが望遠鏡を空に向けて覗き込んでいました。
声をかけると、鳥を見ていたとのこと。
どうやらバードウォッチャーらしく、趣味でこの道30年以上のベテラン。
与那国島でしか見られない鳥を求めて、来たという。
いろいろ話していると、「すみません!」と突然話を遮り、望遠鏡を空に向ける。
カメラ機能も付いているようで、カシャカシャと音がしました。
撮影が終わると、「ごめんなさいね。ちょっと珍しい鳥かなと思ったもので」とお詫びをしました。
素人の私の目には、鳥の種類なぞさっぱりですが、気持ちの面で共通することはあります。
というのも、鉄道マニアの世界には車両派というのがあるからです。
この人たちは車両を追究することを主な使命とし、やはり分類と比較に長けています。
研究のみならず、珍しい車両を我が写真に収めようと追いかけてしまう人も少なからずいますから、このバードウォッチャー同様、行動力があります。
考え方とかもいろいろ共通することはありそうですが、一般の目からはまったく違うようで、バードウォッチャーは大方尊敬の眼差しで見られるのに対し、車両ウォッチャー(=車両マニア)は気味悪がられる傾向にあります。
そんなことを考えていると、ふと上の方でずっと滞空している鳥がいました。
「ずっと飛び続けている鳥なんて珍しいですね」と私がつぶやくと、
「あれはアマツバメといって、どこでもいます」
素人がうっかり自分の考えを口にしてはいけない。
アマツバメが突如、地面に向かって一気に下降したと思ったら、すぐにまた上がっていきました。
「餌を捕ったのでしょうか」
「そうですね」
こんどは正解しました。
「この周辺の海水温がまだ高いからでしょう。水蒸気ができて雲になる。この島の天気は読めませんね」
バードウォッチングをしていると、天候の仕組みにも精通するのでしょうか。
駐車場まで戻り、おっさんは望遠鏡を車の中にしまうと、
「じゃあ、またどこかで会うかもしれないけど、私は先に行きます」と言って、車を走らせました。
一方、私はというと、もう予定していた東崎を達成してしまい、これから先どこへ行くか決めてませんでした。
それで、近くの案内標識によれば、400mほど先に軍艦岩があるそうで、それぐらいなら自転車でも余裕で行ける。
ペダルを踏んで、南へと進み始めました。(続く)