のと鉄道七尾線(のと里山里海号)
輪島駅前からは13時15分発のバスで、穴水駅前に向かいます。
その5分前の13時10分に、金沢駅西口行きの特急バスも出ていて、それに乗れば15時36分に着くのですが、やはり行きと同じでは面白くないし、退屈極まりません。
5分前に改札を通り、ホームに入ります。
私は以前、この観光列車に乗ったことがあり、その時は少々値が張る「ゆったりコース」でした。
今日は平日なので、「カジュアルコース」で、300円の乗車整理券を払えば、乗れてしまいます。
母はこういう観光列車に乗るのが初めてなので、ぜひ知ってもらいと思い、旅程に組み入れました。
ところが、けしからぬことに、駅前で観光バスが停まり、団体客が次々と穴水駅ホームに入ってくるではありませんか。
少なくとも20人以上はいるそうで、もしや、これから私達が乗ろうとしている観光列車を占有する気なのか。
でも、そうであるのなら、のと鉄道のホームページで事前に告知されるはずだし、先ほど改札口で駅員さんからも、「どうぞ好きな席に座ってください」と言われただけで、団体客が乗るとは聞いてない。
「別に乗れなくてもいいよ。普通の列車の方が安いし、帰れるんでしょ」と母はあまり気にしていない様子でしたが、せっかくの機会、乗れなければ、この路線を選んだ意味が薄れてしまいます。
団体客たちはどうするんだろうと見ていたら、一般車の方に乗り込んでいきました。
結局、観光車両には私達と別の男性1人の計3人で、これに女性アテンダントさん2人が乗り合わせました。
座席は4人がけボックス席やソファー、海向きのカウンター席など、様々なタイプが用意されていて、オレンジ色にサクラのイラストをあしらっています。
サービスカウンターも付いていて、飲み物やお土産を買うことができます。
また、車内には輪島塗の器が飾られたり、
パーテーションには、田鶴浜の建具が使われていたりします。
こういう工芸品が散りばめられていて、見るだけでも勉強になります。
14時30分に穴水駅を出発した列車は、まずトンネルをくぐります。
このトンネル内には、のと鉄道の職員手作りのイルミネーションが飾られていて、イルカなどを見ることができます。
その短いトンネルを抜けると、七尾北湾が見えてきます。
この辺りの海では、牡蠣の養殖のほか、ボラ漁も盛んに行われ、櫓(やぐら)が設置されています。
人影が見えると思って、目を凝らしていると、「櫓の上に乗っておりますのは、ただの人形でございます」とアテンダントさん。
本物ではないにせよ、こういう漁が伝統的に行われていたことは、勉強になりますね。
その櫓のずっと手前で、農家のおばあちゃんがこちらに向かって、手を振っていました。
アテンダントさんによれば、観光列車が通過する時はいつも手を振ってくれるとのこと。
なんだか心温まるおもてなしですね。
駅舎は小さくて可愛らしい、ピンクの洋風で、ホーム沿いにはソメイヨシノが植えられています。
今はすっかり枯れ木になってしまっています。
それにしても、駅舎にはスズメバチがウヨウヨと飛び回っていて、降りるのに勇気がいりそうな所でした。
「ツインブリッジのと」がかかっていて、島の奥の方に「のとじま臨海公園水族館」があります。
時々、イルカが湾内を跳ねていることがあり、見えるかなと思って期待しましたが、何も姿を現すことはありませんでした。
14時48分、西岸駅です。
「小牧風」という愛称が付いていますが、それよりも2011年(平成23年)4月に放送されたアニメ『花咲くいろは』に出てきた「湯乃鷺」の方がすっかり知れ渡ってしまいました。
西岸駅を出ると、入り江に差し掛かりました。
牡蠣の養殖場にもなっています。
また、家の屋根瓦が黒いのも特徴で、能登瓦と言うそうです。
山陰本線から見た赤褐色の「石州瓦」ほど派手さはありませんが、艶のある気品あふれた瓦ですね。
全国に2両しかない郵便車「オユ10」が留置されていて、中も見学できるようになっていますが、この列車はすぐの発車でした。
一般車にわんさかいた団体客はここで降りて行きました。
15時17分、七尾駅に到着です。
列車から降りるなり、母は「どうもありがとうございました。私、こういう観光列車初めて乗ったんです」とアテンダントさんにお礼を言いました。
「こちらこそ、どうもありがとうございます、またぜひいらしてください」と笑顔で、私達を見送ってくれました。
帰路が楽しめるのもここまでで、七尾駅からは平凡極まりないものへと変わります。
家に着いたのは、午後6時過ぎでした。
個人的には、輪島旅行はかなり質のいいものとなりましたが、母は果たしてどう感じたのか。
わざわざ感想を訊ねるなんてのは野暮ですから、黙っていることにしました。(続く)