郡上八幡1(宿屋にて)
郡上八幡駅からは、途中コンビニで水を買いつつも、北へ歩くこと20分、今晩泊まる民宿に着きました。
女将さんからは「車で来られたんですか?」と訊かれたので、駅から歩いてきたことを伝えると、
「まあ、そんな遠くからわざわざ」と驚かれました。
いや、都会では20分歩くなどものの数ではありませんが、どうも車社会が行き渡った地方では概ねこういう反応されることが多いですね。
「仕事で来られたのですか?」とも訊かれたので、平日ということもあってさすがに「鉄道旅です」なんて言うのは気が引けたので、「観光です」と答えることにしました。
すると、女将さんは、変わった人だなぁというような目で、「そうですか」と返事をし、続けて、
「この辺りは冬になると雪が積もるんですよ。雪が積もればスキーができるから、それで来られるお客さんもいるんですよ」と説明しました。
夏は郡上踊りで賑わい、秋は紅葉、冬はスキー。
観光で来るのはだいたいこれらのシーズンがセオリーです。
しかし、今は夏でも秋でもなく、かといって雪がどっさり積もっているほどでもない中途半端な時節。
だから、女将さんははじめに「仕事で?」と訊き、私が「観光で」と答えると、怪訝な表情をしたのかもしれません。
案内された部屋に入ると、すでに暖房がついていて、今すぐにでもくつろげる状態です。
が、今日はこの後、7人ぐらいのお客さんが来るそうで、しかも、みんな男性客だと女将さんが言っていたから、風呂場が混む恐れがある。
時刻は午後6時前で、夕食が6時半だから、入るのなら今しかない。
そう思った私は、部屋に置いてあったタオルを持って、浴室へと行きました。
浴槽は家族風呂のような小さなもので、それはいいのですが、とにもかくにも風呂の温度が異様に熱い!
50℃ぐらいあるんじゃないかと思われるほどで、ぬるま湯好きな私には、とても入れたものではありませんでした。
しかも、横からボコボコと泡が吹いていて、ボイラーかなにかで沸かしているようだから、水を注入してもあまり意味がなさそうだなーと思い、入浴は泣く泣く諦めることにしました。
午後6時半、畳敷きの食堂に行き、用意されたお膳の前に着きました。
おかずは豚カツにサラダ、魚のムニエル、お造り、煮物、酢の物や漬物、小さい鍋にはなめこ汁、そしてなぜか焼き餃子3個サービスされました。
熱燗も飲みたかったので、なにか地酒はないかと訊くと、地酒はもう切れてしまい、あとは「松竹梅」しかないと言われました。
仕方なしにそれを頼み、熱燗がやってきて、目の前の食事をいただきます。
素朴で家庭的な料理だけど、やさしい味でホッとします。
しかし、しばらくしてもご飯と汁物が来ないから、とりあえずご飯だけでもと、炊飯器の方へ行くと、
「ご飯ですか?あ、すみませんでした。ご飯と味噌汁ですね。忘れてました」とおばあちゃんが急いでおひつと味噌汁を持ってきました。
酒といい風呂といい、なんだかちょいちょい抜けているところがあれば、なぜか餃子を付けてくれることもあったりと、変なバランスですが、こういうゆるい雰囲気も民宿ならでは。
「お風呂はもうお済みになったのですか。湯加減の方は大丈夫でしたか」とおばあちゃんが心配そうな顔をしていたので、これは嘘を言ってもしょうがない、正直に告白しました。
「まあ、本当にすみません。ボイラーで沸かしているから、一番風呂の方はどうしても熱くなってしまうんです。どうぞあとでまた入ってください」
さすがに2度目は入るつもりはないです。
その後、熱湯風呂から私の苗字へと話が転じ、「へえ~、珍しいですねー」とおばあちゃん。
「お客さんのお名前ほどではないのですが、この辺りは「小倉(おぐら)」という苗字が多いんですよ。郡上八幡は山に囲まれた町で、木がたくさんありますから、木こり職人が多くて。その木こりの先祖を辿っていくと、だいたい小倉という姓なのですよ」と、苗字について説明してくれました。
こういう郷土にまつわる話やエピソードは、やはり地元の方から聞かないと分からないですね。
木こり職人がいたということは、当然、木材工芸もあるということ。
郡上踊りしか知らない(というか調べてきていない)私は、ぜひそれも見てみたいと思いました。
部屋に戻り、しばらくくつろいでいると、どうも暖房の温かな空気が上へ上へといってしまい、私のいるところまでは下りてきません。
暖房にも冷遇されているのかと感じ、設定温度を2度上げてみましたが、やっぱり暖気は私のところまで来ませんでした。
外は真っ暗で何も見えず、そろそろ歯磨きをしようと洗面所へ行くと、今しがた到着したばかりのお客さんが「雪降ってきましたよー」との声が。
どうやら今晩は雪夜になりそうで、歯磨きを済ませた後、布団に入り、明日は降らないでほしいなーと願わずにはいられませんでした。(続く)