与那国島10(最西端観光バス)
日本全国には数多の路線バスが走っていますが、その最西端を走るのは、ここ与那国島の最西端観光が運営しているバスです。
私が泊まった民宿から1分の所に、祖納のバス停があるはずですが、いったいどこに立っているのか見つけるのに難儀しました。
それもそのはず、バス停の時刻表が、民家を囲むブロック塀に貼り付けられていたのですから、衝立だと思い込んだのでは、見つかりっこないわけです。
バス停には私のほか、おばあちゃんと若い男性が待っていました。
9時15分のはずですが、一向に来る気配はなく、「あれ~?遅れるとは珍しいねぇ」とおばあちゃんも不思議そうに道路を眺めていました。
5分遅れて9時20分、「代行バス」と貼り紙をしたワゴン車がバス停の前で停まりました。
おばあちゃんは次の比川、お兄ちゃんは久部良までです。
おばあちゃんに比川浜の海は綺麗だったことを話すと、
「30年前まではもっと綺麗だったよ。遠くまで透き通って見えるぐらい。けど、先の方に防波堤ができたでしょ。あれができてから潮の流れがおかしくなった。今はもう淀んで見える。まだカタブル浜の方が手を付けられてないから綺麗だよ」
そのカタブル浜は、昨日、比川浜を見た後、どうせ同じ景色だろうと思ってスルーしてしまいました。
バックして切り返し、今来た道を戻るようにバスは走り、祖納の町を抜けます。
坂を上り切った所で左折し、山中に向かってさらに上っていきます。
あまりにも楽々に坂を上がっていくものだから、昨日、私が自転車で喘ぎながら苦労したのは何だったんだと、考え込んでしまいます。
高台に出て、サトウキビ畑が広がります。
だいぶ背が伸びてきているようで、来月には収穫できそうです。
サトウキビの種まきは遅くとも9月には行うそうですが、おばあちゃんによれば、今年は遅れたとのこと。
「人手不足なものでね~」
外部から流入している住民が増えているのも拍車をかけているらしい。
地方移住は人口減少の歯止めにはなり得ても、俗化を促進させてしまうのでしょう。
高台が終わり、昨日通った東崎方面からの道を過ぎると、坂を下っていきます。
比川集落に入って、9時25分、バス停の前に停まると、おばあちゃんは慣れた様子でササっと降りて行きました。
乗ってくる客はいませんでした。
このため、景色としてはおもしろくありませんが、代わりに田んぼを初めて目にし、宿の女将さんが言われた通り、たしかに米作りも行われているんだなと確認しました。
今日も晴天に恵まれたおかげで、水をはった田んぼに雲が映り、暖かな陽気が初夏を思わせます。
田んぼを過ぎると、こんどは何てことない草原地帯が続きます。
起伏を繰り返しながら西へ進み、久部良集落に近づくと、「久部良ミトゥ」という湖と湿地帯が現れました。
野鳥の棲みかになってるそうですが、遠くからだとその姿を見ることはできませんでした。
比川からおよそ10分、9時35分に久部良停留所です。
ナーマ浜や漁港の近くで、意外にも線内でここしか海を見ることができませんでした。
お兄ちゃんが降りた後、4人グループが乗ってきました。
私の隣にはでかいキャリーバッグを陣取っているから、申し訳ない気持ちになりましたが、1人が助手席、2人がいちばん後ろの席で、最後の1人が真ん中ドア付近の補助席に着きました。
あと1人乗りに来たら、誰か1人犠牲になるところでした。
県道は北東に向きを変え、湖と湿地帯、その後ろに久部良岳を見ながら、快走していきます。
左手に北牧場が見えると、隣のおばちゃんに昨日与那国馬を見たけど、蹴られたら嫌だから近くには行けなかったことを話すと、それを聞いた後ろのおっさんが、
「与那国馬は大人しいけど、後ろにだけは回っちゃいかんな。警戒心が強いから、後ろに回ると蹴られる」と教えてくれました。
もう馬を間近で見ることはありませんが。
それから、今朝、宿で一緒になった人が海水浴しに行くと言っていたが、11月でも泳げるのかと訊ねると、「大丈夫、泳げるよ」と、おっさん。
あの若い女性の判断は、やはり正しかった。
冬でも最低気温が14℃までしか下がらないというから、さすが南国です。
でも、12月から3月まではどんよりとした天気が続くというから、この点は本土の日本海側と同じなんですね。
グループといろいろ話しているうちに、9時50分、与那国空港に到着しました。
忘れぬよう用心しなければなりません。
スマホを取り戻した後、祖納に用があるグループを乗せたバスが発車していきました。
昨日、空港から祖納までの分と合わせて、バスで島を1周したことになりました。
もっとも、昨日は祖納停留所の30m手前の宿の所で降りましたから、厳密には1周していませんが、このぐらいは誤差の範囲でしょう。
だから、これで最西端のバス路線を完乗したと喜んでいたら、あにはからんや、1日に1往復、与那国小学校を発着したり、比川と久部良の間で1日のうち半分の便は海沿いを経由したりするのも存在しました。
すべてを乗りつぶすのは到底無理だと観念。
でもまあ、これらのルートは自転車でも通ましたから、べつに後悔の念はありません。
空港の中に入ります。(続く)