ゆき丸の鉄道日記

鉄道旅行や雑記を綴ります。

大井川鐡道井川線(千頭~閑蔵)

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9月13日(木)。
 
障子を開けると、昨夜の雨がうそのように上がり、高い空が広々と現わしていました。
 
目の前の大井川は大きな音を立てて流れていますが、涼しい空気であるから、清々しい朝を迎えることができました。
 
 
 
 
 
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朝食と身支度をすませ、宿を出て千頭駅に向かいます。
 
駅前は閑散としていました。
 
 
 
 
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夕べ買っておいた周遊パスを駅員に見せ、右手の6番線のホームへと進みます。
 
 
 
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9時12分発、閑蔵行きの井川線です。
 
客車5両連結で、うち先頭車は運転台付きです。
 
 
 
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いちばん後ろにはディーゼル機関車1両があり、これで客車を押していくわけです。
 
 
 
 
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車内はひと回り狭く、大人は進むのに前かがみになる必要があります。
 
座席は左側に2人がけ、右側に4人がけのボックス席に分かれています。
 
中央の扉付近にはハンドルや放送機器類が備え付けられていました。
 
私が乗った時点では誰もおらず、せっかくなので先頭席に座りました。
 
 
 
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運転席にはマスコンだとかブレーキレバーとか、いろいろな機械がズラリと並んでいて、私にはどれがどういうはたらきをするのかよく分かりませんが、一部は新しいものに取り換えられているようです。
 
この車両は1990年(平成2年)に導入されました。
 
 
 
 
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9時過ぎに金谷駅から来た大井川本線普通列車が到着し、大勢の客が降りて行きました。
 
しかし、井川線に乗り換えた客は少なく、私のいる先頭車には3人だけでした。
 
さらに車掌も乗って扉付近に立ち、列車は定刻通りに出発。

ゆっくりとした速度で進みます。




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※路線図は大井川鐡道ホームページより引用   http://oigawa-railway.co.jp/abt

大井川鐡道井川線千頭駅井川駅を結ぶ全長25.5kmの路線で、1935年(昭和10年)3月、大井川電力の専用鉄道として開業しました。
 
1959年(昭和34年)8月に、大井川鐡道井川線として旅客営業路線になりました。
 
現在、鉄道資産を中部電力保有し、運行を大井川鐡道が担っています。
 
残念ながら、今年5月8日に閑蔵から井川までの5km区間で土砂崩れが発生し、まだ復旧していないとのことで、閑蔵での折り返しとなっています。

 
 
 
 
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2つの踏切を渡り、町中を抜けると、右手には一気に大井川が見えてきます。
 
次の川根両国駅には井川線の詰所があり、車掌が降りて、駅員と話を始めていました。
 
「今日のお客さんは何人?」
 
「先頭車に4人と、あと3両目に〇人。5両編成です。」
 
「はは、2両で十分だな。」
 
 
 
 
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川根両国駅を出た後、長さ145m、高さ8mの川根両国吊橋が見えてきました。
 
渡ることができ、橋から列車を撮ることもできますね。
 
 
 
 
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「本日、大井川は先日の台風の影響で濁っておりますが、普段は青々とした清流が見えます。」と、車掌さん。
 
落ちれば泳いで岸へ向かうこともできないぐらい流れが速いものでした。
 
 
 
 
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わずかな平坦地や段々上にも茶畑があり、「隙あらば茶畑」といった静岡農業魂が見て取れます。
 
 
 
 
 
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沢間駅を過ぎれば、列車は杉林の中に入り込みます。
 
右へ左へと曲がりくねり、その度にギイーッ、ギギギと車輪のきしむ音がけたたましく鳴り響きます。
 
左側にはすぐ山の急斜面が迫っていて、一部柵や法面で崩土を防ぐようになっていますが、密林で高くそびえているため、やや心許ない気がします。
 
しつこいようですが、本当にあの台風21号と長雨からよく無事に(ry・・・
 
 
 
 
 
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奥泉駅に来ると、また茶畑が見え、民家もいくつか点在しています。
 
井川線はまるでトロッコ列車のような路線で、乗客はほとんど観光客ですが、地元の利用者もいて、この点、裏日本の黒部峡谷鉄道とは違いますね。
 
しかもこちらは雪はあまり降りませんから、通年営業というわけです。
 
 
 
 
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その奥泉駅から観光客の一団が乗ってきて、車内は一気に賑やかになりました。
 
この列車は始発列車ですから、付近の寸又峡温泉に泊まったのでしょう。
 
列車が動き出すと、地元の人やそのお子さんが手を振って見送りました。
 
 
 
 
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深い渓谷の中を時速25kmで奥へ奥へと進みます。
 
県道388号接阻峡線(せっそきょうせん)が架かる赤い橋の下を通りますが、杉林が覆ってくぐっている様子はあまり分かりません。
 
ときどき左には小さな滝も見えたりします。
 
 
 
 
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さらに進んだ先で線路が2つに分かれ、列車は右へと曲がります。
 
左の線路は旧線で、1990年(平成2年)10月に新線へと切り替わりました。
 
 
 
 
 
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その新線区間では、途中90‰(パーミル)というとんでもない急勾配が控えています。
 
90‰とは、1000m進むのに90mの高さを登るということで、この高さはオフィスビルおよそ24階建てに相当します。
 
そのため、アプトいちしろ駅から長島ダム駅までの1.5km区間は、専用の電気機関車を後ろに連結して押していきます。
 
4分ほど停車するということで、ホームに降りてみます。
 
 
 
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千頭寄りの引込線から1両の機関車がやってきました。
 
 
 
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乗務員の指示でディーゼル機関車の後ろにやわやわとくっつけます。
 
 
 
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というわけで、ちょっと高さがずれていますが、都合7両になりました。
 
「発車しまーす」という車掌さんの声がかかりましたので、急いで自分の席へと戻ります。
 
 
 
 
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ところで、線路の真ん中に黒くてギザギザのレールが続いていますが、これはアプト式という急勾配を通るためのラック鉄道システムの一種です。
 
どういう仕組みなのか私には分かりませんが、電気機関車に備え付けられた歯車が真ん中のラックレールと噛み合わせることで、安全に登ることができるそうです。
 
海外ではスイスなどの登山鉄道で採用されているようですが、日本では現在、この井川線だけとなっています。
(かつて信越本線の横川~軽井沢間でも採用されていました。)
 
 
 
 
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実際乗っている分にはさほど急勾配と感じませんが、外から見れば急坂なのでしょう。
 
トロトロと自転車のような速度で登って行きますから、景色もじっくり眺められます。
 
 
 
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後ろを見遣れば、通った所がだいぶ低い位置にあり、確かに高い所まで来たなと実感します。
 
 
 
 
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前方に長島ダムが見えてきました。
 
旧線はこの下を通っていて、このダムの建設にともない、水没してしまいました。
 
 
 
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8分の乗車で長島ダム駅に着きました。
 
無人駅ですが、電気機関車はここで切り離されます。
 
 
 
 
駅の先のトンネル内には井川線の写真がズラリと並んでいて、乗客が見れるよう徐行運転をしてくれます。
 
 
 
 
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ひらんだ駅を出た列車は、トンネルを抜けると、ダム湖上に出て赤い「レインボーブリッジ」を渡ります。
 
 
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「レインボーブリッジ」は2つあって、その間に挟まれた形で奥大井湖上駅があります。
 
数名の外国人観光客がホームに立っていて、列車を写真に撮っていました。
 
一方、車内をにぎわせた観光客一団はここで降り、残ったのは私ともう1人の男性観光客、それに車掌の3人だけとなりました。
 
 
 
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ホームとは反対側に、旧線の橋が小さく見えます。
 
 

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2つ目のレインボーブリッジを渡ってまたトンネルに入ります。
 
ずいぶん山奥まで来ました。
 
 
 
 
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接阻峡温泉駅周辺にも集落が見え、隠れ里といった趣です。
 
 
 
 
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鬱蒼とした杉林の中、路盤幅が狭い所を進みます。
 
むりやり敷設した感じで、森林鉄道のような感覚です。
 
 
 
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盛駅で1人降りて行きました。
 
周辺は森しかない秘境駅で、いったい何をするのだろうと思ってしまいますが、しかしこれほどの森林浴を得られる駅は、まずないと言っていいでしょう。
 
これで車内には私と車掌の2人っきりになりました。
 
 
 
 
 
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「列車はまもなく関の沢鉄橋を渡って行きます。
 
高さは71mで日本一の高さを誇っています。」というアナウンス。
 
アナウンスと言っても、客は私しかいませんが、下をのぞくと、関の沢川が勢いよく流れ、両岸は急峻な山が落ちていました。
 
かつて宮崎県の高千穂鉄道の高千穂橋梁が105mの高さを誇っていましたが、廃線になった今、こちらが日本一となりました。
 
ここまでが川根本町で、ここから先が静岡市葵区に入ります。
 
 
 
 
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まったく政令指定都市とは思えないほどの森の中を走ります。
 
両側の法面を抜け、10時41分、この列車の終点、閑蔵駅に到着です。
 
千頭方面にお乗り換えのお客様は、向かい側に停車中の列車にお乗り換えください。
 
お客様のご乗車が済み次第、すぐの発車です。」
 
 
 
 
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降りてすぐに隣(左側)の千頭行きに乗り換えです。
 
せっかくここまで来たからには、到着の余韻を少し味わいたかったのですが、かりそめの終着駅だから、どうでもいいのかもしれません。
 
 
 
 
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井川方面に延びる線路です。
 
どの程度の被害状況なのか想像できませんが、いずれ復旧したあかつきには、残る5kmの区間のためだけに、また乗りに来ることになります。
 
たった1分ほどの滞在時間で閑蔵駅をあとにしました。(続く)