東海道貨物線(おはようライナー新宿26号)
雑節の1つに、「二百二十日」という日があります。
この日は八朔(旧暦8月1日)、二百十日と並んで、農家の三大厄日とされています。
その理由は、農業に多大な被害をもたらすほどの悪天候がやって来るからで、折しもこの時期に台風21号が襲来して、関西地方を中心に高潮などの被害をもたらしたことは記憶に新しいと思います。
その後も秋雨前線による長雨が続き、私の住む富山県でも、ブランド米「富富富(ふふふ)」が収穫できるか心配されるほどでした。
そういう不安定な時期ですから、天気予報も難しく、予報士が伝えたのとは裏腹な天候になったり、直前に変わったりすることは、仕方のないことです。
その「二百二十日」から3日経った、9月14日(金)朝の小田原駅前です。
言い伝えの通り、見事なまでのしとしと雨で、今朝の天気予報では、関東南部を中心に強く降る時間帯があるのだとか。
どうしようもない天候の場合は、せめて高尾登山電鉄に乗ってすぐに引き返そうとも思いますが、やはりなんとかも持ちこたえてほしいという切実な願いを抱きます。
私が乗る列車は、7時41分発の新宿行き、「おはようライナー新宿26号」です。
停車駅は茅ケ崎、藤沢、渋谷、新宿の4つで、このうち茅ケ崎と藤沢は乗車専用駅で降りることができません。
したがって、降車駅は渋谷か新宿のどちらかに限定されます。
このように一風変わった列車ですが、平日しか走らないということで、私の本来の完乗ルールではべつに乗らなくてもいいことになります。
しかし、せっかくの機会ですから、一度どんな景色なのか見ておきたいと思います。
昨夜、入手しておいたライナー券を見ると、10号車に割り当てられています。
「10号車」と書いてあるだけで、具体的な座席番号は記されていませんが、これは10号車のうちどの座席に座っても構わないことを意味します。
それぞれの車両に座席数は決まっており、定員数もそれに準じますから、座れないことはないわけです。
4番線のホームに降り、指定された場所に並んで待ちます。
7時25分、おはようライナー新宿26号の列車がゆっくりと入線しました。
車両は251系といって、特急スーパービュー踊り子号で使用されています。
小田原を発着するライナーは、他にあと2形式の車両が運用されていますが、この251系がいちばん上等な車両です。
特急型車両ですから、座席も特急仕様になっていて、向きを回転させたり、リクライニングしたりすることができます。
私の乗る10号車は先頭車で、前面展望を楽しめる席が4つあります。
幸い、私の前に並んでいるのは1人だけで、その人は展望席の左側に座り、私は右側に座ることができました。
私にとっては特等席で、これで前面と右側の2カ所、景色を楽しむことができるはずです。
「画竜点睛を欠く」とはまさにこのことで、このゆがんだ前面展望と側面展望に1時間20分も付き合わなければなりません。
なまじ梅雨や秋雨の時期に行くからですが、、私の長期旅行はいつもこうで、なかなか最高のシチュエーションにはなってくれません。。。
しかし、何十回と本線を通ったことのある私にしてみれば、ホームのない所を通過するだけでも新鮮そのものです。
しかも(雨が強く打ち付けるにしても)、前面を見ながらですから、気持ちは昂ります。
速度計を見ると、時速100kmちょいで走っています。
東京方面に向かう15両編成の普通列車(右)と並走します。
車内をのぞくと、普通車にはすでに立ち客でいっぱいの状態です。
グリーン車も2両連結されていますが、こちらもほぼ満席のようです。
一方、当方の列車はまだ空席が目立ち、しかも貨物線という特別な線路を走りますから、妙に偉くなった気分になります。
べつに偉くもないのですが、前向きの座席がそういう心理にさせるようです。
ここは二宮か大磯あたりですが、この後、乗客はまだまだ乗ってきますから、空恐ろしくなってきます。
ホームには行列ができていて、車内も一気に混み出しました。
残り2つの特等席も埋まり、8時5分に出発です。
次の藤沢でも追加で乗ってきて、ほぼ満席になりました。
一方、隣の本線のホームはと言うと、どう頑張っても数えきれないぐらい人で溢れかえっていました。。。
私も学生の頃、埼京線で通学したことがありますが、おしくらまんじゅう以上の混雑っぷりに、いつも辟易していました。
それに比べて見ても、こちらの方が酷く、こんなのが週に5日も続くかと思うと、沿線の通勤客は凄い体力だと同時に、気の毒に思いました。
貨物線はホームのない大船、戸塚、東戸塚を通過し、トンネルに入ります。
この先がいよいよ独立した貨物線で、3分ほどトンネルの中を通った後、地上に出ます。
横浜羽沢駅という貨物駅です。
いくつもの側線が並んでいて、何本かの貨物列車も停まっていました。
大きな屋根を持ったホームみたいなのがありますが、かつて荷物を取り扱っていたホームで、現在は使用されておらず、物が積み上がっていました。
右側は丘陵、左側は防音柵によって周囲の景色は見えませんが、この近くで今度相模鉄道と直通させる計画があり、同時に羽沢横浜国大駅も開業予定です。
地下工事も進められているそうですが、どのあたりでされているのか、はっきり分かりませんでした。
※路線図は「都市鉄道利便増進事業」のホームページより引用
いったいどのように運行されるのか分かりませんが、知り合いによれば、現在のJR埼京線を大崎駅から(緑の線で)JR横須賀線、JR東海道貨物線を通って羽沢横浜国大駅、さらに(青線で)西谷まで持ってくるのが濃厚だそうです。
さらに東急東横線との直通(赤線)も考えているという欲張りな計画も進められています。
これが叶えば、たとえばJRと直通だと、二俣川から渋谷、新宿、池袋、さらには(実現するか分かりませんが)埼玉県の大宮まで1本で行け、所要時間を短縮することができます。
また、東急と直通すれば、新横浜まで1本で行くことができ、東海道新幹線に乗り換えられるわけです。
もちろん、その代わり、これらの路線のうち1カ所でも事故が起これば、広範囲にわたってダイヤが乱れることはあり得ます。
そういうわけで、首都圏ではまさに最後の一大直通事業と言えそうですが、それ以上のことは分からないので、再び貨物線の景色に戻ります。
地上区間を1分弱で終え、またトンネルに入ります。
4分ほどで地下からぬっと顔を出して、鶴見駅に来ました。
機関車の付け替えや乗務員の交代など、中継地点として機能しているようです。
その先、新川崎駅の上に長い歩道橋を直交しますが、やはりたくさんの通勤客で行き交っていました。
対向列車の本数が多く、信号場でしばし待ちぼうけとなりましたが、隙を狙って進んでいった感じでした。
にしても、車内はシーンと静かにされていて、私のような写真を撮りまくっている人は、はっきり相当浮いてます。
この雰囲気は、まさに静粛にしようと暗黙の了解で構成された集団がつくりだしたもので、その暗黙の倫理規定に反している私は、村八分(具体的には侮蔑の目)で罰せられていると思われます。
しかし、人間とは往々にして「忘れる生き物」で、どうせこの後、乗客のほとんどは職場に向かって仕事に精を出すはずですから、私の奇行なぞ、短い場合で数分、長くてもせいぜい1日であっさり記憶のゴミ箱へと捨てられるでしょう。
8時56分、渋谷駅には定刻に着き、車内にいた乗客の半分は降りて行きました。
いよいよ終点、新宿駅には9時2分、5番線の到着です。
ホームにはすでに清掃員が待機していて、乗客すべてが降りると、すぐに車内清掃に取り掛かりました。
もう一度、ライナー券を見ます。
小田原から新宿まで乗車券のほか、510円で快適な空間・時間を手に入れられます。
しかも、こちらのグリーン車は「自由席扱い」で、座れる保証がありません。
グリーン車を利用するぐらいなら、むしろこちらを利用した方がトクな気もします。
ただ、毎回、510円払ってライナーを利用するとなると、費用が馬鹿にならないので、その点は懐事情との相談になります。
視界不良ではありましたが、東海道本線の激混みを避けられたという点は良かったと思います。
中央線のホームに移り、高尾山を目指します。(続く)