飯山線観光列車「おいこっと」
2015年(平成27年)10月17日。
友人に誘われて、乗車する機会を得ました。
実は、本来は友人の別の知り合いが乗るはずだったのですが、その日都合がどうしても合わずキャンセルしてしまったそうです。
それで、余ってしまった1人分をふいにするのはもったいないということで、私に振り向けられたのです。
数合わせと言われればそれまでですが、そんなことよりも、とにかく観光列車に乗れることが楽しみな私は、この土日のうちにやるべき仕事をすっぽかして、のんきに長野駅に来たのであります。
11時5分発の観光列車は、専用の塗装を施された1両のディーゼルカーです。
だから、我々利用客はあらかじめ決まったプログラムに従うという点では、束縛された気にもなりますが、代わりに自分1人だけでは体験できないイベントも用意されていますから、それを存分に楽しみたいものです。
車内は利用客で賑わっています。
内装も通常車両から改造を受け、茶色やあずき色、黒を主体とした落ち着いた和風に仕上がっています。
「おいこっと」という愛称は、「TOKYO」を逆から読んだことに由来し、まさに東京とは反対の、田舎の雰囲気を前面に出した観光列車ですね。
ただ、友人によれば、これを利用する人は東京とか県外の人達ばかりで、地元の人はちっとも利用しないのだそうです。
地元の人にしてみれば、あまりに当たり前すぎる光景だから、かえって田舎の良さを見出しにくいのかもしれませんね。
上流からだいぶ流れてきているはずで、さすがに川幅は広いものの、山がすぐ迫ってくる様は中流の美を感じさせます。
中を開くと、信州の食材をふんだんに使った料理が気品よく盛り付けされているではありませんか。
料理を作ったのは、飯山にある料亭。
ここの主人は職人気質で、自分が納得したものじゃないと作らないそう。
だから、多売することはなく、売り上げも伸ばせないけど、しかし質を追求した料理は見事で、最初のごぼうのポタージュですっかり心を射抜かれました。
その後、料理が次々と供され、食いしん坊の私ですら食べ切るのがやっとの量に、お腹も心も満たされました。
正午ごろ、飯山駅に停車します。
今もいるのか分かりませんが、この駅の助役さんが身長190cmを越える方で、あまりの高さにびっくりしてしまいました。
私もわりと身長は高い方なのですが、飯山駅というローカルな駅であの身長は非常に目立ちますね。
ホームから見えるアパートの屋上には、なぜか自由の女神が!??
女神の右手が堂々と空に向かって突き上げていますが・・・、うん、いったいどういう目的でこれを造ったのか、謎に包まれています。
いや、たしかに「リバティ」を日本語に訳せば「自由」ですが。。。
午後1時20分過ぎに列車は森宮野原駅に到着し、利用客はみなホームに降りて行きました。
我々一行も降りて、駅前に出てみます。
「日本最高積雪地点」と書かれた白い柱が立っていて、昭和20年2月12日に7.85mを記録したそうですね。
たしかにここは日本でも屈指の豪雪地帯だけど、8m弱も積もったということは、3階の建物に相当するのではないでしょうか。
首が痛くなるほど見上げちゃいますし、除雪は想像を絶するほど大変だったと思われます。
そんな昔の人々の苦労をよそに、我々を含む利用客たちは駅前の土産物店でお土産を買うのですから、なんと平和なものか。
ホームに戻ると、飯山寄りの端の方で、運転士さんと車掌さんの2人が、先ほど利用客に供された料理を食べていました。
「列車が動いているときは食べられないから、停車している今のうちなんですよね~」と照れ笑いながら言いつつも、明らかに味わう暇もなく、かきこめるだけかきこんでいました。
利用客は駅前に停まっているバスに乗り込み、野沢温泉を目指します。
路線バスタイプなのですが、この乗り心地加減ときたら相当なもので、足の不自由なお年寄りにはやさしくない急ステップを設け、床は古い木造。
さらに走行中は床からガタガタと軋む音が鳴り、それが車内全体に響き渡る。
上っている山道の途中で、走行分解を起こさないかヒヤヒヤするほどでした。
無事に野沢温泉の駐車場に着くと、ホッとしてバスを降り、両腕を思いっきり上に伸ばして深呼吸をしました。
温泉街を通り抜け、まず行ってきたのが「おぼろ月夜の館」。
「春が来た」「故郷」「朧月夜」などを作詞した高野辰之の記念館です。
館内でピアノ演奏者に合わせて上記の歌を唱歌しました。
滞在時間にあまり余裕はありませんでしたが、せっかく来たので、公衆浴場でひとっ風呂浴びました。
ちょうどいい湯加減で、極楽浄土にいる気分。
これで溜まった仕事さえなければと、心の中で恨み節を連発しましたが、いかんいかん、貴重な天国時間に俗世界を持ち込んでは。
とはいえ、身体はさっぱりしても、気持ちの面では完全に洗い流すことはできませんでした。
観光化に成功したことで、野沢「村」なのに、財政が安定していて、市町村合併も免れているのだとか。
でも、こうして歩いてみて、くねくねして入り組んだ道に、両脇に立ち並ぶ古い木造民家、いくつも点在する温泉、観光施設、冬にはスキー場など、たしかに魅力的な要素がたくさん詰まっているのがわかります。
また来てみたい気持ちにもなりました。
約束の集合時間に遅れる人が出てくるのは常で、この時も5分ぐらい遅れたと思います。
またボロバスに乗って山道を降りて行き、途中の道の駅でまたまたお土産タイム。
信州と言えば、やはり野菜と果物がピカイチですね。
買いたかったけど、一人身にはどうしても量が多すぎるし、持って帰るのも一苦労。
したがって、ジャムなど小さい物で済ませたような気がします。
辺りはすっかり薄暗くなり、関心は列車からの景色より家に帰ること、そして明日月曜日のことに向き、だんだんと憂鬱な気持ちへと沈み込んできました。
長野駅に着き、友人と別れると、それまでたしかに笑顔であったはずの表情が綻び、秋の夜、一人新幹線で家に帰りました。